ランニングエコノミーをできるだけシンプルに説明してみた

ランニングエコノミーってなんでしょうか。なんで大事なのでしょうか。エコノミーとはある速度で運動している時のエネルギー消費です。エネルギー消費を直接測る方法がないため、科学者は体が酸素をどれだけ取り込んだのかを測って(=VO2)推測しています。

ある人がランニングを始め、練習を積んで足が早くなる・・・その時に何が起こるのでしょうか。VO2maxが上がる、と考える人は多いかと思います。確かに、運動習慣がない人が運動を始めるとVO2maxは大きく上昇します。

左(練習を始める前)と右(練習してVO2maxが改善した)では、10km/hで走るとき、以前は67%の努力が必要だったのに、足が早くなった時には58%の努力で走れるようになっています。すなわち、楽になっていることがわかるかと思います。(非常に単純化した仮想のデータです)

しかし、20代後半以後である程度トレーニングしているアスリートは、VO2maxは変わらなかったり、加齢に伴い低下する傾向にあります。ポーラ ラドクリフがオリンピアンになる過程で、VO2maxは変わらず、エコノミーが改善したことが示されています。エコノミーの改善こそ長期的な成長の鍵なのです。

エコノミーが改善するとはどういうことでしょうか。ランニングエコノミーが改善する前(青)、改善した後(オレンジ)を示します。10km/hrで走る際に必要な努力が67%から50%になり、楽になっていることがわかります。(これも非常に単純化した仮想のデータです)

ではエコノミーはどのように決まっているのでしょうか。相当な部分は遺伝ですが、トレーニングで改善できる部分もあります。エコノミーは以下のような多くの要因で決まっていると考えられています。

エコノミーを決める因子(Saunders 2004より改変)

  • トレーニング
    • プライオメトリクス、ウェイトトレーニング、トレーニングの時期、スピード、ボリューム、坂練習
  • 環境
    • 高度、暑さ
  • 生理学
    • VO2max, 思春期の成長歴、代謝、ランニングの速度
  • バイオメカニクス
    • 柔軟性(適度な体の硬さ)、体のバネ、ランニングフォーム、地面からの反発力
  • 体型
    • 四肢の長さ、筋肉の丈夫さ、靭帯の長さ、体重と体脂肪率

エコノミーの改善のためにはフォームの改善が大事、とする主張をよくランニング雑誌やSNSを見ます。しかし、フォームはエコノミーを決める数ある要因の中の一つでしかありません。

エコノミーを改善する上で最も重要なのは高いトレーニングボリュームと、それを続けてきてきた期間です。高いボリュームの練習に、プライオメトリクスやウェイトトレーニングを加えることで、さらなるエコノミーの改善が得られることが示されています。その理由は、脳や脊髄レベルでの適応を促すこと、筋肉や靭帯の構造的な適応を促すことにあると考えられています。

体が適応できる範囲でランニングの量を漸増することに加え、エコノミーの改善を目的とした補助トレーニングをいれることを私はお勧めします。といっても、バーベルを触ったこともない人がいきなりゴールドジムに行って100kgを担ぐのはお勧めしません。適切なメニューはアスリートのレベル、トレーニング歴により大きく異なるので、よくよく慎重に導入しましょう。

参考資料

Saunders, P. U., Pyne, D. B., Telford, R. D., & Hawley, J. A. (2004). Factors Affecting Running Economy in Trained Distance Runners. Sports Medicine, 34(7), 465–485. doi:10.2165/00007256-200434070-00005

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