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だんだん暑くなってきましたね。人間の体は暑さに慣れることができます。気温が上がってくる時期は、暑熱馴化(heat acclimatization)を意識したトレーニングが大事です。
暑熱馴化は50年以上の研究の歴史があります。暑熱馴化した体は
- 汗のナトリウム濃度が低く、
- 汗の量(sweat rate)が増え、
- 血漿量が増えています
3は説明が必要かもしれません。血液=血球+血漿です。血漿とは血液のうち液体の部分をさします。暑熱馴化した体では血漿が増える(=血液中の水分が多くなる)ことが繰り返し観察されています。体の表面の血流を増やして熱を逃がしやすくしたり、汗を作るための水をためる目的があると考えられています。
汗が増えている、というのも重要です。暑さに強い人は汗をかかない、水を飲まないイメージがありますが逆です。よく汗をかいて熱を逃がしているのです。ですので、暑熱馴化した体でも水分補給は重要です。
暑熱馴化を誘導するにはどうしたらいいのでしょうか。いろいろ研究されていますが、体温を上げるような内容の練習をほぼ毎日、1〜2時間程度するのはだいたい共通しています(1-3)。5日程度でも汗の量の変化は起きますし、10日~14日程度で最大の馴化を誘導できるようです(1, 2)。
ここから先はマラソン4時間以内、月200km以上走っているようなアスリートを念頭に書きます。このようなアスリートは暑い季節に普通に練習していれば、ある程度の暑熱馴化を獲得できているはずです。
ですが、現実に5~7月のレースではアスリートが暑さのせいで力を発揮できない、というのをよく見ます(i.e. 比叡山International Trail Run, 村岡ダブルマラソンなど)。それは、季節的に気温がだんだんと上がる時期であるため、普段の練習よりレースの日が暑いからではないかと考えています。
また、普段は朝や夜など涼しい時間に練習しているが、レースは直射日光が強い日中である、というのも似たような問題です。このように、普段の練習よりさらに暑い環境でレースがある場合は、意図的に暑熱順化を誘導するような練習を勧めます。
今まで述べたような、もともと暑い時期だが、さらにレースが暑いと予測される場合は以下のように練習を調節しています。
- 意識的に暑い時間帯に走る
- 練習の最初にインターバル走、スプリントを入れて体温を上げる
- 練習後にそのまま浴室暖房をつけたシャワーに入って体温が高い時間を伸ばす
これとは別のシナリオですが、暑い場所に旅行してレースに参加するのも暑熱馴化が大事になってきます(i.e. Ultra Trail Tai Mo Shan, OSJ 奄美トレイルランなど)。この場合は、私は以下のように対処しました
- フリースなどで厚着して走る
- ジムで長袖を着て走る
1は洗濯物が大変ですし、異様なのであまり勧めません。私はPatagonia R2 Jacketに某社の透湿性がほぼないソフトシェル(??)を重ねています。凄まじい蒸し暑さを体験できるので自信は付きます。
2はジムに通える環境であればやりやすいです。もともとジムの空調の設定はランナーには暑すぎるので、長袖を着なくても相当暑いです。また、練習後に汗を流してサウナに飛び込めば体温が高い時間をさらに延長できます。ただ、ジムのトレッドミルは使用時間に制限があることが多く、十分練習できないかもしれません。
この記事で述べた戦略はどれも私が実践しており、今まで私が暑いレースをうまくこなせた大きな要因と考えています。しかし、いずれの練習法も熱中症の危険があるため、体調を見ながら無理せず取り組んでください。熱中症は死ぬ可能性もある危険な病態であることを忘れないでください。以前に書きましたが、1回や2回スゴい練習をしても体は変わりません。継続的に取り組んだことだけが体を変えるのです。
参考文献
1. Gibson OR, James CA, Mee JA, Willmott AGB, Turner G, Hayes M, et al. Heat alleviation strategies for athletic performance: A review and practitioner guidelines. Temperature (Austin). 2020;7(1):3-36.
2. Karlsen A, Nybo L, Nørgaard SJ, Jensen MV, Bonne T, Racinais S. Time course of natural heat acclimatization in well-trained cyclists during a 2-week training camp in the heat. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2015;25(S1):240-9.
3. Racinais S, Périard JD, Karlsen A, Nybo L. Effect of heat and heat acclimatization on cycling time trial performance and pacing. Med Sci Sports Exerc. 2015;47(3):601-6.