ビッグデータでみるトレーニング内容と走力の関係

スポーツ生理学の論文を読んでいると、サンプル数(被験者の数)の少なさに驚きます。10人〜30人程度の研究がほとんどのように思います。これは協力者を見つけることの難しさや、測定の煩雑さに由来するものだろうと推測します。

さて、最近はみなさんGPSウォッチでトレーニングやレースを記録するので、何万人ものデータの解析も可能になりました。Polarのウェブサイトに蓄積されたデータを解析した論文がNature Communication誌に発表されているので紹介します。かなり複雑な論文ですので、読者の興味を惹きそうな部分を中心に紹介します。

Emig, T., Peltonen, J. Human running performance from real-world big data. Nat Commun 11, 4936 (2020). https://doi.org/10.1038/s41467-020-18737-6

まず、著者らはレースタイムを予測するモデル(数式)を以前から提唱しており、それが今回のPolarの2万人分のデータでも当てはまることを示しています。

上記論文のEq. 1

この数式で読者の大半が脱落した気がしますが、簡単にいうと、γl がレースの経過とともに低下するパワーの割合です。これはランナー固有の数値でありγlさえ決定すれば、El (持久力~=つかれにくさ), vm(VO2maxに達する最低速度~=維持可能な最大速度)の計算ができ、これらがレースの結果を説明するのに十分なのだ・・・というのが論文の前半部です。

さて、紹介したかったのは数式ではありません。このパラメーターを確立した上で、著者らは22,000のトレーニングシーズン(1シーズン=180日)を見ていきます。その結果4つの洞察をえます。

上記論文のFigure 5

Fig 5a: 練習の総距離(dtrain)と維持可能な最大速度(vm)は相関する

練習の総距離に比例してvmが高くなり、最大の3600km(月間600km)でもその関係は線形です。

Fig 5b: 練習の平均相対強度(ptrain)と維持可能な最大速度(vm) に負の相関がある

足の速い人ほど楽なトレーニングの割合が高く、遅い人はきつめのトレーニングをしています。

Fig 5c: TRIMPの総和と持久力(El)は比例するが、TRIMP総和が25,000あたりで飽和する。

TRIMPとは強度*時間で練習負荷を数値化したものです。

Fig 5d: 練習の平均相対強度(ptrain)と持久力(El)は相関する

さて、この論文は相関を見たもので、因果関係はよくわかりません。

しかし昨今のスポーツ生理学の理解に照らしあわせて雑にまとめると、以下の結論を示唆しているものと考えます。

  1. 低強度練習の量と足の速さは比例する
  2. 高強度練習は持久力を涵養する
  3. 練習計画は低強度と高強度練習を適切に混ぜる必要がある

花背の森トレイルラン Sコースを完走する秘訣

今週末は花背トレイルランです。今年は42kmの部というスペシャルコースが設定されました。募集は30人、完走者は数人!という触れ込みです。そこまで難しいものとは知らずうっかりエントリーしてしまいました。
さて、どの様な作戦が必要でしょうか。通常の25kmの部のうち、17kmの区間を2周する構成です。手がかりとして、過去の自分の記録を使いました。花背に2015年に参加した際はなかなか調子が良く、3時間8分で完走しました。その際の通過時間の記録に以下の仮定を持ち込みます。

前半の区間タイム = 過去の記録 * {faster}
後半の区間タイム = 過去の記録 * {faster} * {decay}

{faster}: 過去の自分のタイムに対する今年の割合
{decay}: 後半の失速係数

{faster}を0.85-1.0, {decay}を0.9-1.3に振って予想タイムを作ります。2つの変数を振った時の完走可能かどうかのヒートマップです。青が完走、赤が失格です。faster = 0.93を境にすっぱり完走と失格が分かれます。0.93であれば、かなりの失速も許容される様です。0.93ですと、21km地点の通過時刻が関門ギリギリの2時間39分です。すなわち、21km地点を通過できればかなり完走できる、と想像できます。
hanase_heat

以下のプロットでは黒丸が関門時間、各線が想定タイムです。黒丸より上だと失格しています。

hanase_all_v_cp1
左のパネルにすべてのケース、右のパネルに21kmを突破できる変数の組み合わせを抽出します。右のパネルでは36km地点>42km地点で少し失格するサンプルが出る程度です。すなわち、21kmを突破すれば完走の可能性が高いといえます。

さらに、すべての組み合わせの中で、5時間40分以内にフィニッシュできる組み合わせを抽出しました。こうみると21kmの関門時間に間に合わなくても、5時間40分以内にゴールまで組み合わせは相当あります。21kmの関門がきつすぎです。また、36kmの関門がややきついことも分かります。

hanase_finish

というわけで結論として、21kmの関門をギリギリでも突破すれば完走は可能です。10分残して通過すると相当余裕ができます。完走にはサブスリーと謳っていますが、どちらかというとサブスリーのマラソンをやるような強度で1周目を走るレース、というイメージです。とにかく21kmの関門を目指して頑張りましょう。そのあとは結構失速してもなんとかなります。

データで振り返る信越五岳2019

信越五岳トレイルランニングレース2019 (SFMT2019)が無事に終わりました。今年は晴天に恵まれ、特別に素晴らしい年だったと思います。私はペーサーとして参加し、ささやかな成功を収めたのでなおさら思い出深いものとなりました。

興奮が冷める前にSFMT2019をデータで振り返ります。Trail Searchのデータをもとに作成しましたので、今後出る公式発表とは微妙に異なる可能性があるのをご承知おきください。

完走率は100マイルで高く、110kmで低かった

以前の予想記事で今年の100mileは関門時間の調整により易化していると予測しました。実際、前回の完走率48%に比べ今年は57.4%と改善しています。

出走 ペーサー付き ペーサー付き(%) 完走 完走率(%)
100mile 572 75 13.1 328 57.3
110km 706 120 17.0 384 54.4

一方、110kmの完走率は62.6%から54.4%に悪化しています。暑さのせいでしょうか。それにしては100mileの好成績が納得できません。

私が懸念するのは、今年から始まった妙高エリアでの前泊の悪影響があったのではないか、ということです。妙高に前泊した人は、斑尾に前泊した人に比べ、1時間以上早起きする必要があります。さらに、今年はバスの手配に手違いがあり、寒い中野外でバスを待っていたと聞きます。レースにいい影響があるとは思えません。前泊地のデータがないので検証ができないのですが、100mileと110kmの出来の違いを説明できる有力な仮説と考えています。運営の方にはぜひ検討していただきたい点です。もしビブ番号と宿泊エリアの情報を提供していただけたら当方で解析しますがどうでしょうか。

ペーサーの力は絶大である

自分がペーサーをした手前、とてもイヤらしいのですがペーサーの影響を検討しました。公式データではペーサーの有無はわかりませんが、Trail Searchのデータにはペーサーの情報も掲載されています。

まず、前表のようにペーサーをつけている人は10-20%と結構少ないです。2年連続ペーサーを務めた私には意外でした。

ペーサーの有無と完走率の関係を下にまとめます。

カテゴリー ペーサー有無 出走 完走 完走(%)
100mile なし 502 267 53.2
100mile あり 70 61 87.1
110km なし 584 287 49.1
110km あり 122 97 79.5

驚いたことに、全体の完走率が55%前後のレースであるのに、ペーサー付きの選手は80-90%が完走するのです。ペーサーの有無と完走には各カテゴリーで有意な相関があり(P < 10e-08, Fisher’s Test)、ペーサーなしの選手に対するペーサーありの選手が完走するオッズ比は110kmで4.0, 100mileで5.9でした。万難を排してペーサーをつけたいものです。もっとも、このデータから因果関係を見いだすのは無理があります。ペーサーをつけるような人的・経済的リソースがある人や、レースにかける思いの強い人は完走しやすいとも解釈できます。

どの箇所でも脱落が起きる

私が初めて出場した年は、「笹ヶ峰に行けたらあとは完走できる」と友人に教えてもらいました。膝が痛む中、その言葉を支えに命からがらゴールしたものです。さて、本当でしょうか。各ポイントでレースに残っている人数の推移を示します。

図1

110kmでは黒姫〜笹ヶ峰の区間が鬼門と言えますが、全体的に均等に脱落者が出ている印象です。110kmでは笹ヶ峰を出た482人のうち、ゴールしたのは384人(80.0%)です。残念ながら、笹ヶ峰にたどり着いても安心できません。

110kmで黒姫〜笹ヶ峰が鬼門になる理由はなぜでしょうか。いくつか説明が考えられます。

  1. 黒姫まで気持ちよく走った人が、笹ヶ峰までの林道で力つきる。
  2. 笹ヶ峰手前の渋滞がひどかった
  3. 今年は暑かった

おそらく1が真実で、2と3は違うと思います。2についてですが、前回の予想記事でも書いた通り、100mileのスタートが1時間早くなり、110kmのスタートがアクシデントで30分遅れたこともあり渋滞は緩和されたようです。

笹ヶ峰に入った時刻の密度を部門ごとに示します。縦線が関門時間です。関門時間より結構前にピークがあり、100mileと110kmのピークも離れています。吊橋での渋滞の問題は小さかったと想像します。

図2

3についてですが、1日で一番暑いのは14時ごろです。ですので、末尾の選手は黒姫までの区間で一番暑さに苦しんだはずです。笹ヶ峰にたどり着かない理由として弱いと思います。

関門時間は適切になった

2018年大会の分析記事で、アパ、自然の家の関門閉鎖の2時間以上前に通らないと完走できなかった、と書きました。2018年の大会は前半の関門が甘いため、関門に合わせて走る選手が黒姫と笹ヶ峰でひっかかる設定でした。

今回はアパ、自然の家の関門が1時間前倒しされています。また、後半の関門が1時間甘くなっています。その結果、2018年のようないびつさは無くなりました。

アパの関門閉鎖までの時間と完走率の関係です。アパは依然甘い印象です。閉鎖30分以内に入った人の完走率は7.4%で、閉鎖26分前に入った人が最後の完走者です。アパには30分前には通らないときついと言えます。来年の大会ではさらに30分繰り上げても良さそうです。

図3.png

自然の家の到着時刻と完走率の関係です。こちらは非常に自然な印象です。

図4.png

なんと、最後の完走者は自然の家に閉鎖3分前に入っています。この粘りには感服です。

エイドでの滞在時間はフィニッシュタイムと相関がある

Trail Searchのデータは、大エイドでINとOUTの時刻を記録しているのが面白いです。エイドでの滞在時間の合計を集計してみました。

部門 平均 最低 q5 中央値 q95
100mile 1:32 0:10 0:24 1:35 2:47
110km 0:43 0:02 0:07 0:44 1:22

休憩時間が記録されているのは100mileで5箇所、110kmで3箇所です。なので、全ての休憩時間を捕捉できているわけではありません。しかし、それでも休憩が長いのと短いのではとても大きな広がりがあることがわかります。

たとえば、100mileの部に着目してみます。一番休憩が短い人は5箇所で10分、一方、平均的な選手は1時間32分です。休憩時間を削って1時間22分も稼いでいるのです。1時間22分早く走るよりよほど容易だと思うので、ぜひ休憩時間を短くしたいものです。

休憩時間とフィニッシュタイムの関係を示します。フィニッシュタイムが短い人ほど休憩時間が短い傾向が明らかです。早い人は休む時間を惜しむと言えます。

scatter

 

ちなみに、私のチームの合計休憩時間は11分です。かなり頑張ったと思います。

2019年は良い年だった

天候に恵まれ、とても良い思い出ができました。大会スタッフの皆さん、チームメイトの皆さんありがとうございました。100マイルの開催が3回目になり、日本を代表するレースとしてさらに洗練されてきたと思います。10年、20年と続く大会になるよう、これからも応援しています。

 

update 1 (2019-09-19)

一部言葉を修正しました。最後の図を箱ひげ図から散布図に差し替えました。

サロマ湖ウルトラマラソンで速い人が好むシューズ、遅い人が好むシューズ

DogsorCaravan.comに面白い記事が載っています。サロマ湖ウルトラマラソン100kmの参加者全員のシューズのブランドを数えたデータを載せているのです。

しかし、せっかく手間をかけた調査なのに、データから十分に知見を引き出せていません。こちらで分析してみました。

まず全体のシェアについては特に付け加えることはありません。

気になったのはタイム別のシェアの部分です。積み上げ棒グラフではデータの構造が分かりづらいのです。データを復元してヒートマップを作りました。

アシックスは遅い人ほど使用率が高く、ナイキは早い人に使用率が高いことが推測されます。相関は弱いもののOther(主にミズノ、New Balance)が遅い人に多い傾向もありそうです。

線形回帰モデルを作って時間帯とブランドの使用率の関係を検討しました。詳細は省きますが、ホカ以外の全てのブランドで時間帯と使用率に相関がありました。下に実際のデータと回帰曲線を示します(**: p < 0.01, * : p < 0.05, NS: non-significant; Benjamini & Hochberg法による調整後のp値)

すなわち以下のことが言えます。

時間帯と相関が強い(=傾きが大きい)

  • ナイキが早い人に多い
  • アシックスが遅い人に多い

 

時間帯と弱い相関がある

  • Other(主にミズノ、New Balance)が遅い人に多い
  • アディダスが早い人に多い

 

時間帯と相関が見出せない:

HOKA

 

アシックスやナイキが時間との相関が強いのは、ランナーの感覚として納得できます。ナイキはエリート向けのハイエンドシューズに力を入れています。Vaporfly, Zoomfly, Zoom Pegasus Turboなどの早いランナー向けのモデルが目立ちます。クッションがよく効いているので、ウルトラでも使いたくなりそうです。もともとこれらのシューズをマラソンで愛用している人が、ウルトラでもナイキを使っているのではないでしょうか。

一方、アシックスはターサーやソーティなどのエリート向けモデルはありますが、薄すぎてウルトラに使いたくはならないのです。ゲルサロマ、メタランなどのゆっくりとウルトラを完走したい人向けのラインナップは強い印象があります。これらのブランドのカラーが素直にサロマ湖のシェアに現れているものと想像します。

ホカがどの時間帯でも一定のシェアがあるのは、CarbonXのようなエリートモデルからBondiまでウルトラに良さそうな靴を幅広く揃えている結果かもしれません。よく見るとなかなか面白いデータだと思いました。かく言う私や妻は春の富士五湖でナイキを履いていて好成績を収めました。

ONTAKE 2019はきつかったのか

12時間切りを目指して参加したONTAKE100ですが、結果は惨敗でした。2016年大会に続いて2回目の参加でしたが、今年の方が長かった気がします。100kmの部のデータをまとめてみました。

完走率

完走率は81.2% (842 / 1023)でした。これは例年よりやや低いです(2016年 84.2%, 2017年 83.3%)。

完走タイム

平均フィニッシュタイムは2019年が15時間43分に対し、2016年が15時間9分、2017年が15時間26分でした。下に完走タイムの密度プロットを示します。2019年(青)が右側にシフトしている(=遅い)ことが分かります。また、2019年のプロットには14時間の左に小さな山ができています。100マイルの資格を得られる14時間切りを目指した群があることが示唆されます。

2016年と2019年の平均タイムとの差をブートストラップ法で区間推定しました。2019年の平均フィニッシュタイムは2016年に比べ26-42分遅い(90%信頼区間)ことがわかりました。

2016年と2019年の比較

両方の年に出場した選手を292名抽出できました。2019年のタイムを従属変数とする線形回帰モデルを作り検討しました。2016年のタイムは2019年のタイムを強く予測していました。さらに、2016年に50歳以上であったことは、2016年のタイムとは独立した予測因子であることがわかりました。2016年に50歳以上だった選手はそうでない選手と比べ2019年のタイムが41分遅い傾向がありました。

下に2016年と2019年のフィニッシュタイムを散布図で示します。青が50歳以上、赤が50歳未満です。回帰曲線を描くと、50歳以上が上にシフトしている(=タイムが遅い)ことが分かります。

考察

2016年より今年がきつかったと感じたのは正しかったようです。2016年に比べ、今年のタイムは35分前後遅くなっています。

原因として、2019年は水しかないエイドが多かったこと、雨の影響などがあるかもしれません。ですが、なんといっても2019年はコースが少し長かったのが一番の原因と思います。GPSのログで2016年が98km, 2019年が102.5kmになっています。この4.5kmを走るのに35分余計にかかったと考えるのが自然ではないでしょうか。

私は今年のレースを2016年より5分長くかかってしまったので、進歩のなさに失望していました。ですがこのデータを見るとそこまでひどくもなかったのかなと思います。

今回の回帰分析の結果から、トレイルランニングにおいて、一般選手のパフォーマンスが下がり始めるのは50歳前後ではないかと感じました。私の肌感覚ともよく合います。ほかの競技に比べて、中年でも活躍できるのがトレイルランニングの面白さと思います。

UTMF2019の渋滞は列の後ろの選手に大きな影響があった

UTMF2018の募集人数は1400人でしたが、UTMF2019は約2400人とかなり増えました。そのため前半の渋滞がひどかったとあちこちから聞きます。これをデータに見出だすことはできるでしょうか。

まず、渋滞は列の後ろ=順位の低い人ほど長くなります。UTMF2019がUTMF2018に比べて渋滞がひどい大会だったとしたら、順位の低かった選手ほど今年のラップタイムが悪くなるはずです。このような仮説をもってデータを可視化してみました。すなわち、UTMF2018と2019に両方出場した選手を抽出します。各選手のラップタイムを2年分比べて、今年と去年のどちらが早いのか調べます。

509人の選手が2年連続出場していました。各区間について、横軸に一つ前の計測ポイントでの順位(2年出場した選手の中での順位)、縦軸に去年のタイムとの差(秒)を示します。例えば、”A1 IN”のパネルですと、横軸は粟倉ウォーターステーションの順位、縦軸は粟倉~A1富士宮間の「ラップタイム差」(秒)を示します。ラップタイム差は以下のように計算しています。

ラップタイム差 = 2018年のラップタイム-2019年のラップタイム

負(=赤)であれば2019年の方が遅いことになります。

粟倉-A1, A1-A2, A2-A3では順位の低い選手ほど今年の成績が悪い傾向がありそうです。今度は順位とラップタイム差の関係を線形回帰でモデリングしてみます。

縦軸は先ほどと同じラップタイム差です。横軸は直前の計測地点を通った全ての選手での順位を示しています。

やはり、粟倉-A1, A1-A2, A2-A3では直前の順位とラップタイム差に有意に相関があります。その程度は相当なものです。

1000位後ろの選手のラップタイム差
粟倉-A1 +24.5分
A1-A2 +47.2分
A2-A3 +37.4分

1000位後ろにいると粟倉~A3で2時間近く2018年大会より遅くなることになります。これは渋滞の影響であると解釈するのが自然と思いますが、ほかにもいくつか解釈が可能です。

1 – 渋滞に関係なく、列の後ろの人ほど道が荒れているので遅くなりがちである

2 – 2019年にフィットネスが落ちた、あるいは2019年の大会で調子が悪いものほど順位が低く、その結果ラップタイムも悪い

1はある程度真実であると思います。道が荒れていると渋滞ができやすくもなるので、渋滞と道が荒れていることの作用を分けて分析するのは不可能です。2は一見もっともらしいですが、A3以後で順位とラップタイム差に関係がなくなることの説明がつかなくなります。ですので、2は考えなくてよいかと思います。

2600人が狭いトレイルに一気に突入するのは渋滞必発で、ウェーブスタートを導入すべきだと思います。今回の分析から、序盤に最後尾にいた人はトップに比べ4時間半も不利な計算になります。例えば半分の2時間が渋滞の列で待っているとしますと、2時間の幅をもたせたウェーブスタート制が適当でないでしょうか。UTMF2016に参加した際はスタートでの押し合いがひどく、危険と感じました。ウェーブスタート制の導入は押し合いを緩和するメリットもあります。客観性、公平性を期すためにITRAのPerformance Indexに基づくウェーブスタート制を提案します。

Ultra Trail Australia 2019の準備

来週のUltra Trail Australia 2019の予習メモです。

コース内容

100km, 累積標高4400mのトレイルレースです。比較的走りやすいようです。Ontake 100kmが累積3000mですから、Ontakeよりややきつい内容と見ます。

フィニッシュタイムによって完走賞が変わります。14時間以内で銀のバックル、20時間以内で銅のバックル、以後はメダルになります。下にフィニッシュタイムの分布を示します。フィニッシュタイムは13時間台に大きなピークがあります。銀のバックルを狙って走る人が多いのでしょう。Ontakeの私の持ちタイムからすると、順当に走って14時間台後半でしょうか。なんとかとりたいものです。頑張ります。

エイドは多い

食べ物が出るエイドが5か所、それに加え水だけのエイドが2か所あります。2018年大会のフィニッシュ時間ごとのラップタイムを下に示します。ただし、Emergency Water Station (91km)が2018年になかったようなので、3km先のSewage Treatment Works (94km)のデータを代わりに使っています。

CP1-CP2, CP4-Fairmont Resort, CP5-Sewage Treatment間が比較的長いですが、それでも2時間強です。レギュレーションで2L分の水の容器を持つ必要がありますが、実際にエイドを出るときの水の量は700ml程度でよさそうです。CP4, CP5を出てから次に食べ物があるエイドまで3時間半程度ありやや長いです。

親切なことに、この大会ではジェルやクリフバーをエイドでもらえます。CP1-CP3ではジェルを1個ずつ、CP4, 5では2個ずつ貰うのがよさそうです。スタート段階で秘密兵器、メイタンゴールドを2個持っていく予定です。

14時間切りのタイムテーブル

2018年に13.5~14.5時間でフィニッシュした選手の中央値をもとに14時間切りタイムテーブルを作りました。スタートグループ2を想定しています。

距離 時刻
CP1 11.4 07:48:18
CP2 31.6 09:59:23
CP3 46.0 11:53:59
CP4 57.3 13:31:51
Fairmont Resort 69.4 15:37:16
CP5 78.4 17:02:14
Sewage Treatment Works 94.3 19:14:09
Finish 100.0 20:20:40

ルール、必携装備は独特

いままでハセツネが世界一ルールが細かい大会と思っていましたが、UTAもなかなかです。公式サイトには42項目のルールが載っています。特にユニークな点を挙げます

  • スタート時間はマラソンタイムかITRAのPerformance Indexに基づくスタートグループ制
  • これはとてもフェアで安全な素晴らしいやり方と思います
  • 最初のグループと最後のグループは1時間半ずれます
  • タイムはネットタイムで計算してくれます
  • 幸いスタートグループ2になりました
  • 夜は指定の安全ベストをザックの上から着ること
  • フリースジャケットが必要
    • 天気が悪い場合:スタート段階から必携
    • 天気が良い場合:CP4, CP5を設定時刻より遅く通過する場合に必携
  • ポールは可。ただしLeg1では使用禁止でザックにつけるか収納するかしないといけない
  • ゼッケンが見えなくなるので、腰ライトは不可
    • Ultraspire Lumen 600などはダメ
  • ゼッケンはシャツにつけるかゼッケンベルトを使う。常に重ね着の一番上に着けること。透けるジャケットの下でもダメ
  • 弾性包帯が必携
    • 生地やサイズに細かい指定があり現地調達がよさそう
  • ドロップバッグをCP3, 4, 5, Finishに置ける(親切!)

雑多なメモですが、UTAに参加される方の参考になれば幸いです。間違いがあればご指摘ください。

Suunto 9 vs Garmin Fenix 5: GPSの性能を比較する

皆さんはギアを選ぶとき、どこを参考にするでしょうか。私はfellrnr.comを一番信用しています。ここの管理者はGPSウォッチを自腹で多数買ってベンチマークをしています。分析が非常に細いです。

しかし残念ながら最近のモデルは扱っていません。ですので、ガーミンとスントの最高機種のどちらがいいのか自分で試してみました。

機種

  • Garmin Fenix 5 (APAC model, Software version: 12.40, GPS: 2.5.0)
  • Suunto 9 BARO (Software: 2.6.54)

方法

  1. 左腕にスント、右腕にガーミンを装着
  2. ガーミンの設定はGPS: Normal (GPS only)、スントはデフォルトの設定のままで。
  3. それぞれトレイルランニングのモードにし、GPSの信号を受信するまで待つ
  4. 同時に測定開始
  5. 大宮林道(往復10km)を3往復して測定終了
  6. GPXファイルからPythonでタイムスタンプ、高度、距離を抽出して比較する

両手にGPSウォッチ。まともじゃない光景です。

結果

それぞれの公式サイト上の統計は以下の数字でした。驚くほど一致しているようです。

  • スント 総距離30.1km, 上昇量1202m
  • ガーミン 総距離 30.22km, 上昇量 1201m

しかし、GPXファイルからデータを抽出するとかなりずれがあります。

横軸が距離、縦軸が高度です。赤がガーミン、青がスントです。高度の測定はだいたい一致していますが、2周目後半から距離のずれが目立ち始めます。

時間に対して距離、高度をプロットしてみます。やはり2周目の終わりあたり、10時ごろから距離のずれが目立ち始めます。

さて、スントとガーミンどちらが正しいのでしょうか。林道の正確な距離は不明です。ですので正確さ(真の値に近いかどうか)は不明です。

ですが、同じ林道を行ったり来たりしているので1周当たりの距離は同じはずです。その観点から、1周ごとの距離にばらつきが目立つガーミンよりスントの方が距離の精度が高い(=測定のばらつきが少ない)と言えます。一方、高度についてはガーミンの精度が高いようです。スントの最高点、最低点ともにばらつきがあります。スントが売りにするfusedaltiの機能が逆効果である可能性を疑います。

さて、距離の違いはどこから来たのでしょうか。GPXファイルをGoogle Earth Proで観察すると一目瞭然です。

先ほどと同じく赤がガーミン、青がスントです。赤の線があらぬところを通って暴れていることが分かります。青の線もそれなりに暴れているところがあります。高い木が多い大宮林道ではGPSウォッチの性能はこの程度なのでしょう。

というわけで、大宮林道の1回戦はスントの勝ち、と結論します。結構面白いので2回戦もやるかもしれません。

Garmin Fenix 5のGPSの性能が低いのではないか、というのはガーミンの公式フォーラムで話題になっており、それを確認できたように思います。

UTMF2019を完走した人はレース序盤から早いのか

前回の記事が好評だったのでUTMF2019の続編をさっそく書きました。今回は順位の推移にフォーカスします。100マイルレースは早い人で17時間、遅い人では46時間もかかります。これだけ長いレースで順位はどのように推移するのでしょうか。

序盤の順位が低くても上位フィニッシュできる

まず、91名の完走者の順位の推移を折れ線グラフで示します。

なんともごちゃごちゃした図なのですが、A1(富士宮)で順位が低い人がかなりの割合なのに驚きます。実際、38名(41%)が富士宮の段階で100位より後ろです。一番後ろの人はなんと733位でした。ヒートマップにするともう少し構造が明らかになります。

各行(横の線)が一人の選手、色がその地点の順位を示します。上から順に女子1,2位・・男子1位、2位・・・と並んでいます。左の縦棒のピンク、ブルーは性別を現しています。ピンクの棒は短く、女子の完走者が極めて少ない(9名)ことが分かります。

ヒートマップの色は1位(青)~100位(白)~200位以上(赤)のグラデーションになっています。

まず目につくのは、上位陣はずっと上位であることです。上位15名くらいはレース全体を通じて安定してだいたい上位圏(50位以内)にいます。一方、それより下の人たちのレース展開はまちまちです。16位以後の男子66人に着目すると38名(58%)が富士宮で100位以上におり、だんだんと追いあげていきます。A6忍野までにはほとんどの選手が100位圏内に上がってきています。忍野でだいたい勝負が決しているようにも見えます。

さて、完走者の41%が富士宮での順位が低く、レースが進むにつれ上位者を追い上げてゴールしたことになります。逆に言うと、富士宮で順位が高かった人の多くが河口湖にたどり着かなかったということです。何が起きたのでしょうか。

A1 富士宮のトップ集団の過半数は振り落とされる

A1富士宮を男女それぞれ100位以内で通過した選手の順位の推移を示します。先ほどと同じく、横の一行が一人の選手を現しています。富士宮の通過順に上から女子1位、2位~100位、男子1位、2位~100位と並んでいます。

やはり富士宮でのトップ100位の多くが、レース中盤から順位を落としていきます。男子100人のうちゴールしたのは44人で、56人はレース中断させられたか、それより前の段階でDNFしています。だんだんと順位を落としDNFする人が目立ち、レースが崩れていって止めてしまう姿が想像できます。一方、順位を維持しながらある地点でパタリとDNFする人もいます。怪我などの突発的な異常がおきたか、レースに失敗しそうならDNFするポリシーをもった人ではないかと想像します。

A2麓のトップ集団の4割が振り落とされる

同様にA2麓をトップ100で通過した人の順位を示します。

麓トップ100のうち、ゴールしたのは61人でした。39人はゴールにたどり着かず、その多くは大きく後半に順位を落としています。富士宮のトップ集団と似たような傾向ですが完走する人の割合は増えています。

A7忍野以後に大きな波乱はない

A7忍野を100位以内の人で同様の図を示します。

完走者がすべて含まれています。忍野からはほぼ波乱なくゴールまでたどり着いていることが分かります。

一回のレースのデータを観察して得た知見なので、ウルトラ一般にそうであるとは主張できません。ですが、少なくともUTMF2019について以下のことが言えます。

  • 入賞圏内の人は最初からずっと50位以内にはいる
  • レース序盤で100位以内にいても、最後まで維持できるのは半分かそれ以下
  • シード権(100位以内)をとった人に尻上がり型が目立つ

UTMF2019を完走した選手の凄み

UTMF2019は残念なことにレース開始から27時間で中止が発表されました。100マイルレースに向けての練習や意気込みは大変なものです。中断を余儀なくされた選手の無念に心から同情します。実況サイトからの情報を集計して分析しました。公式データではないので、順位や人数は多少前後するのはご容赦ください。

3%しかゴールしていない

 

距離

人数

出走人数に対する%

Start

0.0

2428

100.0

A1 IN

22.8

2418

99.6

A2 IN

51.1

2352

96.9

A3 IN

66.0

2116

87.1

A4 IN

78.0

1993

82.1

A5 IN

95.4

1906

78.5

A6 IN

114.5

1688

69.5

A7 IN

127.1

883

36.4

A8 OUT

140.5

398

16.4

A9 IN

154.8

162

6.7

Finish

166.2

91

3.7

富士吉田にたどりついたのが6.7%, ゴールまでたどりついたのが3.7%です。ゴールに着いたのは91人しかおらず、全員シード権を獲得できます。最後にゴールした選手のタイムは29時間54分でした。真のエリートしかゴールしていない、と言えます。

多くの選手はA6 忍野(114km)で終了している

各計測ポイントを通過した人数の出走者に対する割合を示します。A2麓以後にリタイアがでるのは2018年と同じですが、A7 きららにたどりつく人が少なかったのはレース中止の影響と思われます。多くの人はA6忍野で終了したようです。救済処置を勘案すると完走率は78%になり、昨年の72%より良いです。

レースは去年よりきつかった

UTMFに去年と今年2年連続出場している人が430人もいました。その多くがたどりついたA5勝山のタイムを示します。

青線が2018年、2019年のタイムが同じだった時の線を示します。x軸が2018年、y軸が2019年のタイムです。すなわち、青線より左上だと2019年のタイムが長く、右下だと2018年のタイムが長いことになります。多くの選手は2019年のタイムが長いことが分かります。この傾向は忍野、きららでも同じでした。

悪天候で道が荒れていることが原因でしょうか。人数が増えたので渋滞があったとのうわさも聞きました。これらが影響したものと思われます。

2年連続フィニッシュしたエリートはより早くなっていた

しかし2019年の方が遅い傾向はゴール地点では消えています。UTMFを2年連続で完走した選手は30人いました。まさに究極エリートです。何人かが知り合いの名前がありうれしく思いました。2018年、2019年のフィニッシュタイムを先と同様に示します。多くの点が青線より右下にあり、2019年のタイムが早い選手の方が多いです。

この知見にはいくつか解釈ができます。

  • エリート層はたゆまず練習しているので1年で足が速くなった
  • エリート層は悪天候をものともしない
  • エリート層は道が荒れる前に通過するので悪天候の影響を受けにくい

おそらく、いずれも少しずつ当たっているのではないかと思います。

UTMFについては色々と調べたいことがあります。私が気になっているのは以下の点です。

  • 人数が増えた結果、上位層の厚みが増したのではないか
  • 海外選手の参加人数の推移
  • 渋滞の影響はどの程度あったのか

今後、おいおいやっていこうと思います。