留学開始編2: 家の契約と支払い

家を見つけるだけでも大変だったのですが、契約はさらに大変でした。10月26日(木)の見学で契約を決断したのですが、見学担当の兄ちゃんと契約を進めるエージェントはまた別なのでした。iPhoneで契約したい旨をメールし、いてもたってもいられず5分後に電話したところ、仮押さえ金(holding deposit)392GBPと申込書(application form)を受け取ったら仮押さえだよ・・ということでした。申込書を見たところいろいろ面倒そうです。とりあえず仮押さえ金を渡したいと考えました。

国際送金をやったことがないため、現金を事務所に届けるのがベストと判断しました。手持ちの現金を数えると380GBP….あと12GBP足りない!初めてプレスティアのカードでお金をおろしました。不動産屋の事務所はプレハブみたいな建物で、姉ちゃんはアニメキャラみたいな髪の色をしているし、”The Wolf of Wall Street”*のポスターを貼っているので不安になりました。が、建物の中を子細に観察すると不動産屋さんとしての活動をしていることは明らかで、まあこれがイギリスの文化なんだろうと考え直しました。

申込書はオンラインフォームで、大人全員分入力必要があります。パスポート、雇用と給料を証明する書類、現住所(??)を証明する書類のスキャンが必須です。私は職場の契約書、日本の住民票を出しました。こういった書類は出国前にスキャンしておくことを勧めます。

しかし、これでも1. 紹介者がいないのは困る 2. 収入の証明がない、と文句がつきました。1については本当に幸運なことに、アメリカ留学時代の知り合いがイギリスに住んでいて、紹介者になってもらうようお願いできました。

2については、給与明細過去3か月分、さらに去年の日本の確定申告の書類(会計事務所がPDFを送ってくれる)を送ると納得してもらえました。どちらが効いたのか不明です。

ここからはえらいスピード感で、金曜夜には正式契約のための契約書の電子署名の案内と、敷金の支払いの案内がきました。前者は簡単でしたが、問題は大金をどう動かすかです。

敷金は1,569GBP (28万円)と、日本なら振り込みでなく現金渡しでも何とかなりそうな金額であります。しかし、6か月分の家賃10,200 GBP (184万円)はさすがに振り込みでしょう。プレスティアのオンラインバンキングにログインして衝撃を受けました。海外の新規振込先を登録するのに1週間かかるのです!!!これはいかん、と三井住友銀行のオンラインバンキングにログインすると、こちらも海外の新規振込先の登録に1営業日かかるとあります。金曜夜(イギリス時間)ですから、最速で動いても火曜にならないと振り込みできません。さらに着金まで数日かかるとあります。敷金の支払いが終わってから、家賃の前払いの案内があり、それが確認出来たら鍵渡しです。銀行振り込みでは8日後の入居予定日に間に合いません。

それで、土曜夜にWiseに急遽サインアップしました。人気の国際送金サービスです。送金をセットアップすると身分証明書の確認がありました。日曜朝に見ると身分証明書の確認に問題がある、とのことでやり直しました。日曜夜には確認が終わり、無事送金できていました。驚くようなスピードです。

Wiseは1回100万円しか送れない、という欠点はあるのですが、10分で着金します。手数料も悪くないです。日本円を両替し、英国へ送金する場合の手数料はこんな感じです。50万円以下の送金ならWiseのほうが安くて早いのです。

  • Wise: 送金額0.66%+70円
  • プレスティア:両替手数料なし(指値で外貨を仕込んでいたら)+3,500円

プレスティアを日常の買い物、ATMの引き出し、急がない高額送金(50万以上)に使い、50万円以下の送金にWiseを使うのが一番得な計算になります。Wiseにサインアップしたくなったらこちらのアフィリエイトリンクからしてください。Wiseで敷金と6か月分の前払い(184万円弱)を2回に分けて振り込み無事成約となったのでした。

*ペニー株をだまして売りつける詐欺師の映画

留学開始編1: 家探しの困難(2023年10月)

渡航前に人事担当者に家探しについて相談したところ、渡航当初はAirbnb(オンラインの下宿サイト)に泊まりながら、現地で家探しをするのが一般的である・・・とのことでした。このアドバイスは全く正しいのですが、渡航先の住所がない状態で引っ越すことの不便さを後々思い知ることになりました。

イギリスの賃貸探しは極めて非効率です。日本のように不動産屋さんにふらりと入って良さそうな物件を何軒か見せてもらって決める・・・という風にはなりません。各物件に一つの仲介業者がついており、rightmove.co.ukというSUUMOのようなウェブサイトで宣伝しています。ウェブサイトで良さそうな物件があれば、各業者に連絡し、業者ごとの手続きを経て見学の日程を調整します。業者によってやり方は違うのですが、だいたい電話で相談します。もう客がついたとか、4人家族はダメだとか、見学日を待っている間にほかの人が契約したとか色々な理由で断られるので、良さそうな物件を見つけても見学にたどり着くのは半分程度です。運よく見学を提案してもらえたら、決められた日時に現地集合して見学します。見学はだいたい翌日~2営業日後です。ちなみに日曜は業者は休みです。

国内にいるうちからrightmoveで探していたのですが、問い合わせても返事がないのが大半です。ある業者だけ相手にしてくれたので、入国3日目に見学を1件入れました。ケンブリッジに入った日(入国2日目)に不動産屋さんの店頭でさらに見学を一件入れてもらいました。

入国3日目(金曜)に2件見学しましたが全く話になりませんでした。1件目はバイオハザード7の家みたいだし、2件目はエレベーターのない2階で双子ベビーが住むには適しません。これは私のミスで、イギリスで1st floorというのは2階を指すのです!1階の物件だと思っていったら、2階だったのでした。そういえば中学校で学んだなあ・・・。見学のためにタクシーに1回乗ると2000円くらいかかるので、心が疲れてきます。

並行してrightmoveで他の物件を探します。イギリスの電話番号を問い合わせの際に入れておくと、結構電話が返ってきます。不動産屋さんの多くが電話ベースで仕事しているため、日本の電話番号を入れても無視されていたのだ・・・と気づきました。

土曜の見学が先方の都合で一方的にキャンセルになり、イギリス到着して4日目になっても進展がないため焦ってきました。rightmoveで良さそうな物件がどんどん成約して消えていきます。

あまりに非効率なうえ、条件に合う物件が少ないので、ほかの探し方がないか調べました。

ケンブリッジ大学の関係者向け家探しサービスがあります。ここには市場に出ていない物件があり、なかなか良いものもありました。が、数は少なく電話してもすでに成約していました。大学管理物件のウェイトリストもあります。が、1週間待ってもあっせんはありませんでした。不動産屋さんの店頭にも赴いたのですが、結局rightmoveに載っている物件しかなく、各業者の在庫が10件程度で条件に合うものが1件あるかないか、といったところでさらに非効率でした。

月曜に1件見学しましたが、ロケーションが納得できませんでした。見学を重ねると、だんだん適切な物件がわかるようになってきました。2000 GBP (36万円)以下、2 bed flat (日本の2LDK相当)、家具付き、1階の物件で、スーパーと通勤バスから徒歩5分以内、ジムから2km、エリアはケンブリッジ駅より南側という条件にしぼりこみました。

一番理想に近い、と思われる物件がまだrightmoveに残っていて値下げされていました。日本にいたころに電話でこの物件の見学を申込み、年収が低すぎるので・・と断られました。渡英してから学んだ魔法の言葉があります。6か月でも12か月でも家賃を前払いするで!といってやるのです(“I will pay 6 month or 12 month rent upfront if necessary”)。ダメ元で電話してみて魔法の言葉を叫ぶと木曜に見学を入れてもらえました。結局、木曜に見学し契約を決断しました。結局、入国8日目、4件目の見学で決めたことになります。非常にいい物件を見つけたと喜んでいます。

しかし支払が大変だったのでした・・・・。

留学準備6: 国内の財産整理・海外でのお金のアクセスの確立(2023年夏)

10代のころにカリフォルニアの大学に留学したのですが、今回の留学ではそのころに比べてしがらみが増えています。特に厄介なのが、不動産・投資信託・株です。

私は住宅ローンを組んでマンションを購入して住んでいました。留学期間は貸したらいいんじゃないか、というアドバイスを何人かからいただいたのですが、住宅ローンで借りている物件を貸しているのが銀行にばれたらまずいです。ローンを借り換えて貸すか、売却するか、留学期間は空き家にするか、の三択になります。京都で貸して収益が出るように思えず、子供ができたら手狭と感じていたこともあり、売却することにしました。2023年2月に不動産屋さんと専任媒介契約を締結したのですが、2023年10月になっても残念ながらまだ売れていません。ですが、これは便利な点もありました。退去時に不動産屋さんに鍵を預け、残置物の破棄、ハウスクリーニングをお願いできたので片付けが楽でした。

次に金融資産です。ほとんどの証券会社は海外居住者に制約を課しています。私は楽天証券とSBI証券の口座に少し保有していたのですが、いずれの会社も海外転居する場合、日本株と国債しか保有できないし、海外にいる間は売買できないという規定があります。国外転居したことを通知せずにいると、発覚した際にすべて売却して口座を凍結する、とあります。これでは売却のタイミングが悪くなるかもしれず、また突如お金にアクセスできなくなる恐れがあり困ります。調べた範囲では野村證券が海外転居者への制約が少ないため、野村證券に移管できるものは移管し、移管できないETFや投資信託はいったん売却しました。

海外から自分のお金にアクセスするためには三井住友信託銀行プレスティアの口座が人気です。海外からもインターネットバンキング・ATM利用ができ、両替手数料が極めて安価でATM利用料は無料です。ですがこれにもいろいろ落とし穴がありました。詳しくは別に述べますが、プレスティアは国際送金サービスとしてはいまいちで、日常生活の決済に便利です。口座開設後に自らトークン・家族カードの申し込み、印鑑登録、マイナンバー通知をする必要があり、トークンやファミリーカードの受け取りは国内住所がないと面倒です。ですので渡航の2か月ほど前には開設したほうがいいです。また、プレスティアとは別にWiseのアカウントも作ったほうがいいでしょう。

留学準備5: ビザ申請(2023年9月)

ビザ申請は大きなストレスのもとでしたが、後から考えてみれば心配は不要でした。イギリスは、渡航の3か月前以内でないとビザの申請ができません。ですので予定日の2か月前になってもビザが下りない、飛行機チケットも買えないタイトなスケジュールで申請を進めることになり、本当に留学するのか周りにも心配されました。しかしイギリスの制度ではこれが普通の進行なのです。

留学先はビザ申請支援の部門があります。まず、雇い入れ日と渡航日を決める必要があります。今回は、Government-authorised exchange (GAE) visaというtemporary work visaの一種を取得することになりました。雇い入れ日を11月1日としたので、それより2週間前から入国できます。フライトの値段を見て安そうな10月18日を入国予定日としました。後から分かったのですが、ビザ記載の入国予定日より実際の入国日が遅くなるのは問題ないが、早すぎるのはまずいのです。早すぎた場合、観光ビザで入国してしまい、GAEでの滞在を始めるためにいったん出入国する必要が生じます。ですので、ビザ記載の入国予定日はできるだけ早い日にしたほうがフライトのスケジュールを柔軟に組めます。通常、雇い入れ日の2週間まえです。

GAEビザの申請は簡単で、ウェブサイトでサクサクと進みます。質問項目はかなり多く、アメリカのESTAの項目を3倍に増やした感じです。結構お金がかかります。ビザ申請料+ビザの年数分の健康保険料+生体認証採取の手数料で併せて25万円払いました。健康保険料はビザの年数分前払いで返金なしです。ですので、無駄に長いビザを取得するべきでないです。

政府ウェブサイトでのビザ申請が終わると、写真撮影・指紋採取のための予約に進みます。日本では大阪と東京に事務所があります。予約はすいているようで、申込の翌日から空き枠がありました。英国政府は民間企業にこの業務を委託しており、追加料金で色々なオプションサービスを勧められます。迅速審査(1万円くらい)とかSMSで審査の進捗を教えてくれる(¥2,000)など変なオプションもあります。結局、パスポート返送(¥2,000)だけ付けました。これをつけないとパスポートを後日事務所に取りにいかないといけないのです。

結局渡航予定日の42日前にウェブサイト上の申請・支払いをし、37日前に指紋採取に行き、27日前に承認の通知をメールで受け取り、その数日後にパスポートが返ってきました。渡航予定日の1か月半前になってもビザ申請に進捗がないので不安でしたが、ウェブサイト入力が終わってからはスピード感で進むので、心配することはなかったのだと後から分かりました。なお、妻子のビザは今後取得します。

留学準備4: サンプル移転の手続き・国内編(2023年初頭~2023年10月)

私の留学先は様々なヒトサンプルの解析で、科学に大きな貢献をしています。研究所が病院と併設でないため、ヒトサンプルは共同研究先から取得しています。今回、留学先で研究するためのサンプルを本学から留学先に移転することにしました。これは本学と留学先の間に調整を要し、2023年初頭に着手したものの、出国時点で発送に至っていません。

堅気の(=アカデミアでない)方に読んでいただいているようなので、医学研究の進め方を説明します。映画やドラマでは怪しい医者が勝手に人体実験しているわけですが、そういうことは現実には考えられません。第一に思い付きで実験しても意味があるデータは取れないし、第二に研究に着手するまでには様々な手続きがあるからです。国内の医学研究ですと、研究計画を倫理委員会に申請して承認を受ける必要があります。また、多くの場合その研究の資金をどこかから取得する必要があるでしょう。

では、国際共同研究という枠組みでサンプルを海外移転する場合はどうなるのでしょうか。相手国によって手続きが変わってくるようで、シンガポールに送った時とはだいぶ勝手が異なりました。まず、研究倫理審査ですが、国内での研究計画の申請、サンプル収集、英国での研究計画の申請の順に進める必要があります。英国での申請は、大学ではなく政府機関に申請します。申請の書類は大掛かりで、日本での申請では見ないような項目が多いので、留学先の担当部署とZoomやメールで話し合いながら書き上げました。さらに書いた後に研究計画のピア・レビューも必要です。これは海外の友人・同輩にお願いしすんなり進みました。日本での申請が2か月、その後に英国の書類をもむのに3か月ほどかかりました。英国の書類を書き上げて申請したのが9月初旬、認可が下りたのが2023年9月末です。申請してからは結構早い印象で、日本のようになんどか修正する必要もありませんでした。

それと並行してMTAの締結を進める必要があります。本学MTA担当と留学先の法務で契約書面をすり合わせる作業があります。文面の詳細は担当者にお任せするとして、契約書面にサンプルリストを含める必要があります。MTAの締結は英国での倫理申請が認可された後になるので、そのタイミングを推し量りながらサンプルリストの確定をする必要がありました。9月末に英国で研究計画が承認され、10月中旬に出国ですから、MTAの締結は出国前ギリギリとなってしまいました。

当たり前ながら、関連する部署の担当者がこの案件に専念しているわけではないため、レスポンスはしばしば遅れます。最速で進めたら半年弱だったと思いますが、日本側の問題もいろいろあり結局1年近くかかりました。結局出国時点でサンプルを発送できていません。サンプル移転を計画しているなら、余裕を見て1年ほど前から動いたほうがいいでしょう。

留学準備3: 資金の獲得(2022年夏)

日本人が海外留学する場合、国内で留学資金を獲得して行く場合と、留学先に雇ってもらって給料をもらう場合があります。後者は留学先とこちらの間に強い信頼なりコネクションがないと難しいことが多いです。海外からくる馬の骨にいきなり給料を出してみよう、というのはなかなか考えにくいことです。今回は国内で留学資金を獲得することとしました。

注意すべきなのは、留学支援制度の要件には年齢制限か、博士号獲得からの年限があることです。年齢制限は35~40歳位に設定されていることが多いです。私は留学を考え始めたのが39歳だったため、選択肢が相当狭まっています。ですので、留学はできるだけ早く考えたほうがいいです。特に大学受験で留年した人は要注意です。

学術振興会の海外特別研究員が一番手厚いのですが、あいにく2023年度分の申込期限が過ぎていてたので、ほかの財団を調べることにしました。やってみて気づいたことが2つありました。まず、ほとんどの制度は各大学から一人だけ応募できます。すなわち、本応募の前に学内選考を勝たなければいけないのです。本学は大きいため、学内選考で落ちて応募できないことがありました。

次に、ほとんどの留学支援制度の応募には留学先のPIの手紙が必要で、応募するたびにPIにお手数をおかけしました。ですので、PIとの信頼の構築は留学開始前から大事なのです。

応募要件が40歳まで、ということで、ラストチャンスである国際医学研究振興財団の留学支援制度に照準を定めました。渾身のポエムを送ったところ、学内選考に残り、本選考でも幸運にも採択していただきました。2022年年末に盛大な授賞式にご招待いただき、私の英国留学が決定しました。

公務員や企業の海外赴任と学者の留学は天と地の差である、というのは事実です。そもそも留学にあたって日本での雇用を終了しており、手当など出ません。海外赴任者からすると冗談みたいな金額ですが、年額600万円、2年間というのは国内の留学支援制度の中では有数の手厚さです。ここから所得税を納める必要があり、海外の物価を考えると相当な赤字を覚悟する必要があります。のちに述べますが、ケンブリッジの家族向けのアパートの家賃が30-40万円です。ですので、家賃+税金で大半が消えることになります。これでも家賃は安い部類で、ロンドンだと2倍くらいするらしいです。一方、単身であれば10-20万円で済むでしょう。独身のうちに留学する方が金銭的にも手続き面でも楽なのは間違いないです。

幸い貯金がありお金に困ることはないですが、社会人になってから初めてキャッシュフローがネガティブになります。理系ランナーである私の家計が炎のランナー(Chariots of Fire; 火の車)状態になりそうなので、日本皮膚科学会の留学支援制度にも応募し、幸運にも追加で支援いただけることになりました。

複数の支援をいただけた私は非常に幸運です。今の国内の留学支援制度の金額では、先進国での生活は困難です。この状況を放置していてはいよいよ海外との学術交流が困難になり、日本のさらなる衰退を招くと懸念します。

留学準備2: 留学先の決定(2022年夏)

登場人物

  • Hippo教授:所属医局の教授
  • Stream教授:筆者が研究させてもらっている基礎医学の教室の教授
  • Lucky先生:以前ご指導いただいた先生。Stream教授の弟子

*登場する人物・団体・名称等は架空であるが、実在のものとなにか関係あるかもしれません・・・

留学を決断したので、まずは上司であるHippo教授に留学を考えている旨を相談しました。Hippo教授は世界的に高名で、さまざまなコネクションをお持ちです。ただ、Hippo教授に私の研究分野の知り合いは少なく、具体的な留学先を紹介していただくことはできませんでした。留学を後押ししていただけたので安心できました。

次にStream教授に相談に行きました。その返答が前項に書いたとおりで、「ぜひすべきだ!今やってる研究がまとまっても、まとまらなくても今すぐすべきだ。すごく楽しいらしいぞ。留学していないのが僕の一番の後悔だ!楽しいらしいぞ!」と情熱的なものでした。世界中のどこでも紹介してやる・・ということでした。Hippo教授からその分野でベストのラボに行くように、とのアドバイスをもらっていたので、この分野で高名なラボ2つに候補が絞られました。

さて、一つは英国、もう一つは米国です。英国のラボはケンブリッジ市郊外、米国のラボは(紛らわしいことに)マサチューセッツ州のケンブリッジ市にあります。熟慮の結果、英国のラボに打診してみることにしました。その理由は3つです。第一にもともと英国のラボの研究者の研究が好きで、2016年ごろにはすでにメールを交換していました。ですので私には自然な選択に思えました。第二に家族が安全に楽しく暮らすうえで英国のほうがいいだろう、と考えたことです。アメリカは車社会で、運転が下手な妻はいろいろ困るだろうと心配しました。妻だけではスーパーやジムにも行けそうにないのです。第三に人生で二回目の留学をするなら、すでに4年過ごしたアメリカよりも英国に行く方が新鮮でいいだろうと考えました。英国のラボには以前Lucky先生が留学し、大きな業績を残されています。Lucky先生に紹介を依頼したところ快く受けていただきました。

2022年はまだCOVID-19関連の規制が厳しかったころで海外渡航には制約がありました。平時ですと学会で顔合わせしたり、ラボ訪問してから決定すべきところですが、学会はヴァーチャルだし、海外旅行を職場に禁じられています。英国訪問が現実的でないのでPIとのZoomミーティングをLucky先生にセットアップしていただきました。自己紹介のスライドを5枚ほど準備し、ラボの留学生にプレゼンや話し方のチェックをしてもらい、ミーティングに挑みました。ミーティングはスムーズに進み、二つ返事で受け入れを了承していただきました。ただし、資金は日本で獲得してきてね、ということとなりました。

ケンブリッジ留学記 準備編: 前書きと決断の経緯 

前書き

2023年10月から英国ケンブリッジの研究所に2年間の予定で留学します。いま英国に向かう飛行機の中なのですが、準備は大変でした。後進の役に立つかもしれないので、私の経験を記します。

まず、準備を進める中で気づいたのが、留学の仕方に一つの決まった方法はない、ということです。私が長期の海外生活をするのは2回目ですが、前回と今回は全く違った経験でした。様々な人生のパラメーターが留学の仕方を決めるので、せいぜいある医師・医学研究者一家のn=1の経験と割り切って読んでください。

留学の際、特に重要なパラメーターが以下です。

  1. 留学先の国
  2. 家族構成、特に子供の有無、年齢
  3. 留学先の雇用の形態・資金の出どころ
  4. 金融資産・不動産の有無

このパラメーターが変わると留学準備の面倒さが大きく変わってきます。私の場合は2が特殊で、双子が留学開始の1か月前に生まれました。この辺りをどうしたかはおいおい述べます。

留学準備を経時的に以下に分けて説明してきます。

  1. 留学の決断
  2. 留学先の決定
  3. 資金の獲得
  4. サンプル移転の準備
  5. ビザ申請
  6. 国内の整理
  7. 引っ越し
  8. 英国で生活の段取りを立てる

1. 留学の決断(2022年春~夏)

私はアメリカの大学を卒業した後、日本の大学に学士編入し医師になりました。その後いろいろあり、大学医学部の教員として、診療と研究に取り組んでいました。

そもそも大学教員がなぜ留学するのでしょうか。医局の同僚、先輩は留学を当然と捉えていて、ほとんどの先生に留学経験があるか、留学中です。なので、私が大学院に在学していたころからいつ留学するのか、と聞かれましたが、当時、私は答えを持っていなかったのでした。私は20歳のころにアメリカの大学に留学しましたが、とても大変でした。40歳にもなってもう一度アレをやるのはしんどいな、と思っていたのです。

2022年春、研修医の時にお世話になったO先生から留学のお誘いがあり留学について真剣に考えるようになりました。O先生はドイツで研究者として活躍されており、ポスドクを探されていました。共通の知り合い経由でお誘いがあり、留学について考えるようになりました。O先生のお誘いは結局辞退したのですが、O先生のお誘いなしには今回の留学はまずなかったのでしょう。O先生にとても感謝し、申し訳なく思っています。

O先生のお誘いをきっかけに、アカデミアで留学がなぜ勧められているのか考えました。ざっくり言って以下でしょうか。意識の高い=>低い順に並べてみました。

  1. 優れたテクノロジーや研究者にアクセスできる環境に身を置いてスキルアップし、業績を積むため
  2. 海外の研究者とコネクションを作り、帰国後の国際共同研究、雑誌、国際学会の運営を円滑にするため
  3. 職歴を飾るため

これに加えよく聞くのが、楽しいらしい、ということです。飲み会でFashionable教授が、「留学してた頃が一番幸せだったなー」とおっしゃっていました。留学したい旨をStream教授に相談した際、「ぜひすべきだ!すごく楽しいらしいぞ。留学していないのが僕の一番の後悔だ!楽しいらしいぞ!」とおっしゃっていました。私は面白そうなことはなんでも経験してみたい。だから100マイルを走り、雪山に登り、キリマンジャロ山にも登ったのです。というわけで留学について真剣に考えるようになったのでした。