データで振り返る信越五岳2019

信越五岳トレイルランニングレース2019 (SFMT2019)が無事に終わりました。今年は晴天に恵まれ、特別に素晴らしい年だったと思います。私はペーサーとして参加し、ささやかな成功を収めたのでなおさら思い出深いものとなりました。

興奮が冷める前にSFMT2019をデータで振り返ります。Trail Searchのデータをもとに作成しましたので、今後出る公式発表とは微妙に異なる可能性があるのをご承知おきください。

完走率は100マイルで高く、110kmで低かった

以前の予想記事で今年の100mileは関門時間の調整により易化していると予測しました。実際、前回の完走率48%に比べ今年は57.4%と改善しています。

出走 ペーサー付き ペーサー付き(%) 完走 完走率(%)
100mile 572 75 13.1 328 57.3
110km 706 120 17.0 384 54.4

一方、110kmの完走率は62.6%から54.4%に悪化しています。暑さのせいでしょうか。それにしては100mileの好成績が納得できません。

私が懸念するのは、今年から始まった妙高エリアでの前泊の悪影響があったのではないか、ということです。妙高に前泊した人は、斑尾に前泊した人に比べ、1時間以上早起きする必要があります。さらに、今年はバスの手配に手違いがあり、寒い中野外でバスを待っていたと聞きます。レースにいい影響があるとは思えません。前泊地のデータがないので検証ができないのですが、100mileと110kmの出来の違いを説明できる有力な仮説と考えています。運営の方にはぜひ検討していただきたい点です。もしビブ番号と宿泊エリアの情報を提供していただけたら当方で解析しますがどうでしょうか。

ペーサーの力は絶大である

自分がペーサーをした手前、とてもイヤらしいのですがペーサーの影響を検討しました。公式データではペーサーの有無はわかりませんが、Trail Searchのデータにはペーサーの情報も掲載されています。

まず、前表のようにペーサーをつけている人は10-20%と結構少ないです。2年連続ペーサーを務めた私には意外でした。

ペーサーの有無と完走率の関係を下にまとめます。

カテゴリー ペーサー有無 出走 完走 完走(%)
100mile なし 502 267 53.2
100mile あり 70 61 87.1
110km なし 584 287 49.1
110km あり 122 97 79.5

驚いたことに、全体の完走率が55%前後のレースであるのに、ペーサー付きの選手は80-90%が完走するのです。ペーサーの有無と完走には各カテゴリーで有意な相関があり(P < 10e-08, Fisher’s Test)、ペーサーなしの選手に対するペーサーありの選手が完走するオッズ比は110kmで4.0, 100mileで5.9でした。万難を排してペーサーをつけたいものです。もっとも、このデータから因果関係を見いだすのは無理があります。ペーサーをつけるような人的・経済的リソースがある人や、レースにかける思いの強い人は完走しやすいとも解釈できます。

どの箇所でも脱落が起きる

私が初めて出場した年は、「笹ヶ峰に行けたらあとは完走できる」と友人に教えてもらいました。膝が痛む中、その言葉を支えに命からがらゴールしたものです。さて、本当でしょうか。各ポイントでレースに残っている人数の推移を示します。

図1

110kmでは黒姫〜笹ヶ峰の区間が鬼門と言えますが、全体的に均等に脱落者が出ている印象です。110kmでは笹ヶ峰を出た482人のうち、ゴールしたのは384人(80.0%)です。残念ながら、笹ヶ峰にたどり着いても安心できません。

110kmで黒姫〜笹ヶ峰が鬼門になる理由はなぜでしょうか。いくつか説明が考えられます。

  1. 黒姫まで気持ちよく走った人が、笹ヶ峰までの林道で力つきる。
  2. 笹ヶ峰手前の渋滞がひどかった
  3. 今年は暑かった

おそらく1が真実で、2と3は違うと思います。2についてですが、前回の予想記事でも書いた通り、100mileのスタートが1時間早くなり、110kmのスタートがアクシデントで30分遅れたこともあり渋滞は緩和されたようです。

笹ヶ峰に入った時刻の密度を部門ごとに示します。縦線が関門時間です。関門時間より結構前にピークがあり、100mileと110kmのピークも離れています。吊橋での渋滞の問題は小さかったと想像します。

図2

3についてですが、1日で一番暑いのは14時ごろです。ですので、末尾の選手は黒姫までの区間で一番暑さに苦しんだはずです。笹ヶ峰にたどり着かない理由として弱いと思います。

関門時間は適切になった

2018年大会の分析記事で、アパ、自然の家の関門閉鎖の2時間以上前に通らないと完走できなかった、と書きました。2018年の大会は前半の関門が甘いため、関門に合わせて走る選手が黒姫と笹ヶ峰でひっかかる設定でした。

今回はアパ、自然の家の関門が1時間前倒しされています。また、後半の関門が1時間甘くなっています。その結果、2018年のようないびつさは無くなりました。

アパの関門閉鎖までの時間と完走率の関係です。アパは依然甘い印象です。閉鎖30分以内に入った人の完走率は7.4%で、閉鎖26分前に入った人が最後の完走者です。アパには30分前には通らないときついと言えます。来年の大会ではさらに30分繰り上げても良さそうです。

図3.png

自然の家の到着時刻と完走率の関係です。こちらは非常に自然な印象です。

図4.png

なんと、最後の完走者は自然の家に閉鎖3分前に入っています。この粘りには感服です。

エイドでの滞在時間はフィニッシュタイムと相関がある

Trail Searchのデータは、大エイドでINとOUTの時刻を記録しているのが面白いです。エイドでの滞在時間の合計を集計してみました。

部門 平均 最低 q5 中央値 q95
100mile 1:32 0:10 0:24 1:35 2:47
110km 0:43 0:02 0:07 0:44 1:22

休憩時間が記録されているのは100mileで5箇所、110kmで3箇所です。なので、全ての休憩時間を捕捉できているわけではありません。しかし、それでも休憩が長いのと短いのではとても大きな広がりがあることがわかります。

たとえば、100mileの部に着目してみます。一番休憩が短い人は5箇所で10分、一方、平均的な選手は1時間32分です。休憩時間を削って1時間22分も稼いでいるのです。1時間22分早く走るよりよほど容易だと思うので、ぜひ休憩時間を短くしたいものです。

休憩時間とフィニッシュタイムの関係を示します。フィニッシュタイムが短い人ほど休憩時間が短い傾向が明らかです。早い人は休む時間を惜しむと言えます。

scatter

 

ちなみに、私のチームの合計休憩時間は11分です。かなり頑張ったと思います。

2019年は良い年だった

天候に恵まれ、とても良い思い出ができました。大会スタッフの皆さん、チームメイトの皆さんありがとうございました。100マイルの開催が3回目になり、日本を代表するレースとしてさらに洗練されてきたと思います。10年、20年と続く大会になるよう、これからも応援しています。

 

update 1 (2019-09-19)

一部言葉を修正しました。最後の図を箱ひげ図から散布図に差し替えました。

ランナーがハチにどう備えるか

トレイルランニング中に蜂に刺される人は結構いるようです。なかにはアナフィラキシーらしい症状を呈する人もいて、ハチ対策は大事と思います。しかし、本や雑誌には色々なことが書いていて、何が本当なのかはっきり分からないのです。特に気になる二つの疑問を中心に、信頼できる資料を調べてまとめました。

今回の記事は以下の資料を検討して書いています。

  1. Breisch NL, Greene A. Stinging insects: avoidance [internet]. UpToDate. [Cited 9 Sep 2019]. Available from: https://www.uptodate.com/contents/stinging-insects-avoidance
  2. Buttaravoli P et al. マイナーエマージェンシー 原著第3版. Elsevier;2015.
  3. O’Neil. You’ve been stung [internet]. US army. 2017 [cited 9 Sep 2019]. Available from: https://www.army.mil/article/192172/youve_been_stung
  4. Visscher PK, Vetter RS. Smoke and target color effects on defensive behavior in yellowjacket wasps and bumble bees (Hymenoptera: Vespidae, Apidae) with a description of an electronic attack monitor. J Econ Entomol 1995; 88:579.
  5. 夏秋優. 虫と皮膚炎. 秀潤社;2013.

ポイズンリムーバーは有効か

全くデータはないです。”bee sting” “suction” “aspiration”などで検索しても学術論文は見当たりません。面白いことに、ポイズンリムーバーは主に日本で使われていて、英語圏ではほとんど売っていないようなのです。実際、今回検討したすべての資料で、吸引装置についての言及はありません(1, 2, 3, 5)。

生物はたんぱく質や脂質の膜につつまれた水の袋です。毒が注入されると間質液にすぐ拡散するので「毒を吸いだす」ことなど無理ではないか、と想像します。また、刺された部位にポイズンリムーバーで陰圧をかけると組織に損傷を生じ、炎症が強くなったり感染する危険もありそうです。

結論として、有効性を支持するデータが全くなく、有効であると信じる理由も乏しく、害はあるかもしれないのでハチ刺傷の治療としてポイズンリムーバーを使うのは全く推奨しません

服の色は関係あるのか、どの色がいいのか

日本ではハチ刺傷を避けるために黒い服を避けるように、とよく言われます。面白いことに、英語圏では明るい色の服や花柄の服を避けるように、とのアドバイスが一般的です(2, 4)。この理由として花のような鮮やかな色にハチが引き寄せられるからだ、とされています。これに対し、1は興味深い意見を示しています。ハチの視覚は紫外線~緑色の波長に敏感で、明るい色に反応しない筈だというのです。私もこの意見に納得しました。

さて、黒い服はどうでしょうか。怒ったハチが黒いものを攻撃する、という意見を日本ではよく聞きます。目、鼻の孔、耳の穴をハチが攻撃するのは、黒いからだという意見があります(1)。黒い卓球ボールと白い卓球ボールを並べて、ハチの巣を刺激すると黒いボールばかりが攻撃される、という研究があります(4)。もっとも、このデータをもとに黒い服だと刺されやすいと主張するのは厳しいと感じます。実験ではハチは黒いところを攻撃するのですが、ハチがさすのはおもに顔、腕、足などの露出部であり、黒い服を着ている部位ではありません。

日本と海外で真逆の意見が流布していることより、服の色とハチに刺されるリスクの関係は非常に弱いものではないかと想像します。ですが、黒い服が不利かもしれない理由がそれなりにあり、黒い服を避けるデメリットが特にないことから、黒い服を避けるのは考慮してもよいのではないか、と考えます。

予防は可能か

ハチの巣との接近を避ける、香水をつけない、といった対策は有効なようです(1)。しかしランナーにはあまり役立たないアドバイスです。DEET入りの忌避剤の効果も明確ではありません(1)。

ランナーができる予防策としては、これくらいでしょうか

  • 集団で走る。巣を刺激してもターゲットが分散するかもしれないので
  • サングラスで目を守る。できるだけ肌を服でカバーする

おそらく最も有効な対策は、コース上のハチの巣を駆除することかと思います。

刺されたらどうしたらよいか

ランニング中に刺されたと仮定します。もし毒針がついていれば直ちにつまんで除去しましょう。

刺されたところが腫れていて痛い、かゆいだけであれば特段の処置はいりません。しかし、全身にぶつぶつがでた、息がぜーぜーする、声が枯れる、腹痛がある、気が遠のきそうになるなどの症状がある場合は、ハチ刺傷に関連するアナフィラキシーの疑いがあり、直ちに医療機関を受診すべきです。

刺されたところが腫れているだけであれば、ランニング後も特段の処置はいらず、病院に行く必要もありません。帰宅したら氷水で冷やす、刺された部位をできるだけ心臓より高い位置に置くようにする、程度の対処で数日以内に症状は軽快します。また、次にハチが刺された場合にアナフィラキシーが起こるリスクが特段高まるわけでもないので心配はいりません。

一方、先に述べたようなハチに刺されてアナフィラキシーを呈した方の場合、次に刺されたときにもアナフィラキシーを発症する危険があり、場合によっては死亡することもあり得ます。医療機関を受診してエピペン(エピネフリンを自己注射する製剤)が必要か、医師と相談してください。

今年の信越100マイルの変更点がどうレースに影響するか

今年で信越五岳トレイルランニングレース 100 mileの開催は3回目である。もっとも1回目は短縮になったので、100 mileでの開催は2回目となる。

以前の記事で、信越100 mileの難易度はかなり高く、前半の関門設定が非常に甘いのが特徴と指摘した。前半の関門を2時間半前に通らないと完走はほぼできない。

今年のスケジュールを見ると微調整が施されており、それを改めて分析して今年の予想を立ててみた。

スタート時間が早められ、前半の関門が少しきつくなっている

今年はスタート時間が1時間早くなった。一方、第1関門、第2関門は2時間早められた。以後の関門は去年と同じである。

したがって、第1関門、第2関門は1時間きつくなり、あとの関門は1時間緩くなったと言える。制限時間が32時間から33時間に延びたこともあり完走率は上昇しそうである。

制限時間が変わったためデータからの予測は難しいが、第1関門、第2関門はまだ緩すぎると感じる。遅くとも閉鎖1時間前に通過しないと完走は困難と予測する。

笹ヶ峰手前の渋滞は緩和される。ただし110kmの末尾が割りを食う

笹ヶ峰直前の吊り橋で大渋滞が生じ、そのせいで関門時刻に間に合わなかった選手が出たことが話題になった。

110km, 100mileの選手が笹ヶ峰を通過する時刻の分布をシミュレートしてみた。上段(赤)が今年の予想、下段(緑)が去年の実際のデータである。青線が関門時間である。

不幸なことに、去年のスケジュール(下段)では笹ヶ峰の関門時間直前に選手が殺到したようである。今年のシミュレーション(上段)ではピークは40分ほど早くなっており、渋滞にひっかかって笹ヶ峰で関門アウトになる人は減りそうである。ただし、このシミュレーションは今年のコース変更を反映していない。笹ヶ峰手前のルートが1.7km伸びていることから、今年のピークは実際には20分ほど右にシフトするはずで、関門時刻直前の渋滞はそれなりにありそうである。

注意すべきは110kmの選手である。部門ごとの通過時間の密度を下に示す。上段(赤)が110km, 中段(緑)が今年の100mileの想定、下段(青)が去年の実際の100mileのデータである。

旧スケジュールでは110kmの平均的な選手は100mileよりも先に黒姫を通過している(=赤のピークの右に青のピークがある)。しかし、新スケジュールでは100mileの選手が黒姫を先行する形になる(緑のピークが赤より左)。したがって、渋滞で割りを食うのは110kmの選手が多そうと予測する。

全体として、今年の100mileは少し距離が伸びたものの、制限時刻が1時間伸びたおかげで去年より易化している。前半のペース配分を誤らないのがポイントではないか、と考える。今度の100マイルの時刻変更で予想外に悪影響があるのは110kmで関門ギリギリの選手だろう。

ランナーが4か月ダイエットしてみた結果

以前の記事で、ランナーが走るだけで体重を減らすのは難しいと書きました。体重を減らすには食生活のコントロールが必要です。5月から実践した結果、66.5 kg => 62.4kgに体重が減り、体脂肪率がInbodyの計測で15% => 12%に減りました。毎月2kg減らすという目標には届いていませんが、結構順調と考えています。

減量を意識して4か月過ごし、色々と気づきがありました。

1. 食事をそれほど減らさなくていい

食生活の問題は人によりさまざまですので私個人の話と割り切って読んでください。私の余計なカロリーの摂取源は酒とおやつでした。例えばビール1缶(350ml)は140kcalで、おにぎりに近いカロリーがあります。週に7本飲むと1000kcalも余計にとることになります。職場にはよくお土産のお菓子が置かれており、毎日のようにつまんでいました。これらも相当なカロリーがあったようです。酒とおやつをカットするだけで体重が減ることに気づき、食事の制限は最近していません。今実践しているルールは以下です。

  1. 飲むカロリー(酒、ジュースなど)をできるだけ避ける
  2. 小腹が減った時の間食はナッツかプロテインバー
  3. 外食でカロリー爆弾を食べた時は、次の日の食事を減らしてつじつまを合わせる
  4. レース後も食生活の規律を乱さない

2. 減量すると筋肉も減る

体重は4.1kg減りました。体脂肪率から計算すると体脂肪は2.5kgしか減っていません。この差1.6kgは筋肉の損失と推測されます。実際、お尻が小さくなったなと思います。ランニングのパフォーマンスという観点からはさほど問題ないでしょうが、長期的な健康には問題がありそうです。筋肉の減少を防ぐため、たんぱく質の摂取量を多くするよう心がけていましたが、それだけでは不十分なようです。ウェイトトレーニングもした方がいいのかもしれません。

3. 意外と足が速くならない

一番残念だったのがこれです。体重減少はランニングエコノミーの改善につながると考えてダイエットを始めたのですが、今のところ効果を実感できていません。筋肉が減ったこととも関係があるのかもしれません。もっともベンチマーク的なレースに出ていないので、今年のマラソンシーズンには効果を実感できるかもしれません。体脂肪率10%程度まではダイエットを進めようと考えています。